※隠岐蔵
「はぁ……」
放課後。掃除当番だった私はジャンケンに負け、ゴミ出し係になってしまった。そこまではいい。そのゴミ出しをして教室に戻る最中、担任に捕まってしまったのだ。
「委員会にも部活にも入ってないし、ちょっとだけ先生の手伝いしてくれないか?」なんて言われたら断れないし、軽い気持ちで手伝うことにした。
でもそれが結構厄介で、終わる頃にはもう5時前。結構時間を取られてしまった。
廊下には人気がなく、外から部活動をする生徒たちの声が聞こえてくるだけだ。
「疲れた……早く帰ってゲームしたい」
ボソッと呟いてから、教室の扉に手をかける。
「……あれ?まだ誰かいる」
扉の窓から中を伺うと、同じクラスの吉本くんの姿が見える。その隣にいるのは、A組の隠岐くんだろうか。
確か二人ともボーダー隊員らしいから、ボーダーに関する秘密の話かも。だったら聞いちゃいけないだろうしどうしよう。入りづらいな。
そんなことを考えながら二人の様子を眺めていると、ふいに隠岐くんが吉本くんの頭を撫で始めた。
(……えっ?!)
思わず声が出そうになる。隠岐くんの吉本くん好きは学校でも有名で、よく吉本くんに付き纏っている姿を目撃する。でも男同士だし、友達へのちょっかい程度に考えてたんだけど……。
普段の二人とは打って変わって、今の二人の間に流れる空気はまるで恋人同士のようだった。
そして隠岐くんの手つきがいやらしく見えるのは私の気のせいか。
私は自分の心臓がバクバクする音を聞きながら、息を殺して彼らの様子を見つめていた。
吉本くんを見つめる隠岐くんの目は、愛しそうでどこか熱っぽい。その目を見て確信した。
(隠岐くんって吉本くんのこと、そういう意味で好きなんだ……)
吉本くんの姿は斜め後ろからしか見えないものの、その耳が赤く染まっていることに気がついてしまう。
なんということだ。まさかあのクールで無愛想な吉本くんが、隠岐くんに愛おしそうに頭を撫でられて照れているなんて。
(あの二人、付き合ってるのかな)
驚きながらも好奇心が抑えられず、もう少し二人の様子を観察することにする。
隠岐くんは相変わらず吉本くんの頭を撫でていたが、しばらくすると手を吉本くんの後頭部に移動させ、そのままゆっくり顔を近づけていった。
「ん……」
二人の唇が重なる瞬間を目撃してしまい、慌てて目を逸らす。
数秒後恐る恐る視線を向けると、二人はまたキスをしていた。今度はさっきよりも長く、深い口づけをしているようだ。
(うわぁ、すごいもの見ちゃった……)
顔が熱い。多分私の顔も真っ赤になっていると思う。
見つかったらマズイ。足早に立ち去ろうとすると、吉本くんを抱きしめる隠岐くんと目が合ってしまった。
彼は一瞬驚いた表情を見せたけど、すぐに元の表情に戻り、人差し指を唇に当ててシーっとジェスチャーをした。
その仕草が妙に色っぽく見えてドキッとする。隠岐くんはそのまま何事もなかったかのように再び吉本くんの頭を撫でる。
なんだか見てはいけなかったような気もするが、それよりもドキドキの方が大きい。