蔵之介のヤキモチ


※隠岐蔵

隠岐と蔵之介が隠岐の部屋で遊ぼうと集まり、ひとしきりゲームで遊んだ後各々好きなことをしている時間。
隠岐がソファでテレビを観ていると、膝の間に蔵之介が座ってきてそのままソシャゲをやりだした。
蔵之介が自分から近寄る事なんてまず無いし、こうやって密着してくれる事はもっと無い。
隠岐は嬉しさのあまり抱きしめて頬擦りしてしまいたかったが、それをすると蔵之介が嫌がって逃げてしまいそうなので必死に我慢する。蔵之介は本当に猫のような気紛れさがあるので、あまり構いすぎると怒られるのだ。
蔵之介を意識しないように、無心でそのまま黙ってテレビを見る。ふと蔵之介がやけに静かなのに気付いて覗き込むと、スマホは真っ暗だし蔵之介は顔を赤くして目を泳がせている。もしや。もしやこれは、おれをちょうど良い背もたれにしたとかそういうのではなく、ただ甘えたかっただけなのでは?!

「……隠岐」

蔵之介が恥ずかしそうに口を開く。あぁやっぱりそうだ。間違いない。隠岐は天にも昇る気持ちだった。

「ん?どないしたん?蔵之介くん」

隠岐は気付かないふりをしつつ、笑顔で答える。蔵之介は俯きながらぼそっと呟いた。

「……頭撫でて……」
「えっ?」

聞き間違えだろうか。今、頭を撫でろと言われたような気がするのだが。

「聞こえへんのか。頭撫でろ言うとんねん」

聞き間違いではなかったらしい。隠岐は内心パニックになりながらも努めて冷静な声を出す。

「んっ?えっ……ま、まかして!」

隠岐は蔵之介の髪に触れるか触れないかくらいの距離感を保ちつつ、ゆっくり優しく撫でていく。その手つきは壊れ物を扱うかのように丁寧だが、どこかぎこちなさがある。隠岐の手の動きに合わせて蔵之介の頭が左右に揺れるが、蔵之介は何も言わずされるがままになっている。隠岐は蔵之介の反応を見たくてたまらなかったが、機嫌を悪くして離れてしまうかもしれない。蔵之介の貴重なデレを自分のミスで終わらせる訳にはいかない。今は要求に応えることに集中しようと思い、蔵之介の顔を見ずにひたすら髪を撫で続けた。
暫く経つと、蔵之介がぽつりと話し始める。

「今日……お前知らん奴に告白されてた」
「えっ?!!?」

見られてたのか。まさか蔵之介に見られるとは思っていなかったため油断していた。しかし蔵之介は隠岐の様子など気にせず続ける。

「お前、あの告白どうしたん?」

勿論断った。おれには蔵之介くんしかいない。蔵之介くんしか見えない。蔵之介くんしかいらない。そう思うのに、いつもと違いすぎる蔵之介に動揺して言葉が上手く出てこない。

「……俺の方が好き?」

不安げな声を出す蔵之介に、心臓をキューンと掴まれる。なんなんだこの可愛い生き物は。可愛すぎて死にそう。

「当たり前やん!!!!!めっちゃ好きやわ!!」

隠岐は思わず大声で叫んでしまう。

「隠岐うるさい……。そんな叫ばんでも聞こえるわアホ」

隠岐の大声に驚いたのか、蔵之介は耳を押さえて振り返り、迷惑そうな顔をしている。
突然自分に甘えるように懐に入ってきたのも、頭を撫でろと突然要求してきたのも、全部不安の裏返しだったのかと隠岐はやっと理解する。蔵之介は自分が誰かのものになってしまうのではないかと心配してくれていたのだ。隠岐は堪らなくなって蔵之介を強く抱きしめる。

「ちょっ、苦しいわ離せや」
「嫌や。絶対離さん」

自分ばかり蔵之介のことが好きなのだとばかり思っていた。だけどそうじゃなかった。こんなにも想ってくれていたなんて。隠岐は嬉しくなって更に強く抱きしめる。

「痛い痛い!おい!離せバカ!!」

蔵之介は隠岐の腕の中で暴れるが、隠岐はお構い無しだ。

「おれが好きなのは蔵之介くんだけやで」

隠岐はそう言って微笑む。蔵之介は不貞腐れたような顔で隠岐を見て言った。

「当たり前やアホ」

隠岐に言葉を貰って安心したのか、蔵之介は心なしか満足そうな顔をして、もうデレ終わったとばかりに離れようとした。が、隠岐が離さない。

「蔵之介くん。もっと甘えてええんやで」

隠岐はそう言いながら蔵之介の額にキスをする。蔵之介は隠岐の言葉に一瞬固まるが、隠岐を睨みつけてまた逃げようとする。

「うざいねん!キモい!死ね!」
「はいはーい。照れ隠しはええから〜」

隠岐が笑顔で言うと、蔵之介は顔を赤くしながら隠岐にボディーブローをかましてくる。

「ぐふっ!く、蔵之介くん、ちょっと待って……」

隠岐が腹を押さえるために蔵之介を解放した瞬間を見逃さず、蔵之介はピャッと猫のように逃げた。

「蔵之介くんごめんて〜。許して〜?」

隠岐はソファの上で腹をさすりながら、部屋の隅で膝を抱えて拗ねる蔵之介に謝った。蔵之介は相変わらず不機嫌そうだ。

「……隠岐のアホ」
「ごめんって!」
「俺は甘えたりしてへん」
「はいはい。わかっとるよ」

隠岐は蔵之介の側まで歩いていき、隣に座って蔵之介を優しく抱き寄せる。蔵之介は大人しく隠岐に寄りかかってきた。

「蔵之介くんが甘えたんじゃなくて、おれが蔵之介をかわいいかわいいしたかっただけやもんな?」

隠岐が笑顔を向けると、蔵之介は隠岐の顔を見上げて少し考える素振りを見せたあと、コクンと小さく首肯する。

「お前が頭撫でたそうやったからさせたっただけや」

蔵之介はそれだけ言うと恥ずかしくなったのか、隠岐の胸に顔を埋めた。かわいすぎる。隠岐は蔵之介の背中をポンポン叩きながら、「そっかぁ。ありがとぉ」と優しく囁いた。
蔵之介が甘えてくれた。隠岐は幸せでいっぱいだった。蔵之介が隠岐に気を許してくれている証なのだと思うと、尚更愛おしくなる。

「また頭撫でたりしてええ?」

隠岐が尋ねると、蔵之介は少し嬉しそうな声でぽそりと呟く。

「……別に、たまには、好きにすれば」

その言葉を聞いて、隠岐は思わず蔵之介のまるい頭に頬擦りする。

「はぁ〜蔵之介くん……好きや……」

蔵之介の表情は見えないが、好きにさせてくれている時点で嫌では無いのだろう。
自分の恋人は本当にツンデレで猫みたいで可愛いなと隠岐は思った。

「隠岐」
「ん?なに?」
「お前さっきの奴のこと、どう思ってたん?」

隠岐は先程の告白を思い出して、あぁ、と思い出す。

「あれはただのクラスメイトやで」
「……じゃあいい」

満足げに胸元に擦り寄る蔵之介に、隠岐はもう一度心の中で好きだと思った。



***



翌日、隠岐と蔵之介は2人で登校していた。昨日蔵之介が甘えてきたことを思い出すとニヤけてしまう。蔵之介の気持ちを知ってしまった以上、今まで以上に可愛く見えてくる。隠岐はニコニコしながら蔵之介を見る。

「なんやねん朝からキモいな」
「なんでもないよ〜」

隠岐の浮かれように、蔵之介は怪しむような目線を送る。
そんな会話をしていると、後ろの方から声をかけられた。

「おはようございます!蔵之介先輩!」

2人が振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた蔵之介の後輩がいた。
「おは……」蔵之介が挨拶を返そうとすると、隠岐は蔵之介の服を引っ張って、耳打ちするように言った。

「蔵之介くん、こいつ誰や」

少しムッとしたような顔で聞いてくる隠岐に少し面くらいながらも、ただの委員会の後輩だと蔵之介が返すと、隠岐は納得したようなしていないような複雑な顔で「ふぅーん」と言った。
隠岐は隠岐で蔵之介がモテていることを知っているため、蔵之介に近付いてくる人間への牽制を欠かさない。とはいえ、蔵之介がただの後輩だと言うならそうなのだろうと思いつつ挨拶しようとすると、先に後輩から声をかけられた。

「隠岐先輩ですよね?おはようございます。なんで蔵之介先輩と一緒にいるんですか?」

少し棘のある声色に隠岐はすぐに察した。こいつ蔵之介くんに気があるな、と。

「おれが蔵之介くんと付き合ってるからやよ」

隠岐は笑顔でさらりとそう答えると、蔵之介の腕を引いて歩き出した。

「おい隠岐!何言うてんねん!」
「ええやん。隠すことでもないし。……あいつ蔵之介くんの事狙ってたし」

隠岐はぼそりと呟いたが、蔵之介には聞こえなかったようで首を傾げるだけだった。
隠岐の嫉妬心を垣間見て、蔵之介は少し驚いた。こいつは本当に俺のことが好きなんだな、と。好かれている自覚はあったが、まさかこれまでとはと。正直少しだけ嬉しくなってしまった。
隠岐は意外と独占欲が強いらしい。自分だけを見て欲しいタイプのようだ。
蔵之介はなんとなく、昨日自分がしてもらったように隠岐の頭を撫でた。

「っ!?︎」

隠岐は驚いて蔵之介を振り返る。

「な、なに?」
「いや、……甘えたいんかと思って。いらんなら良い」

蔵之介が手をひっこめようとするのを慌てて掴み、「待って!」と言って隠岐は蔵之介を見つめる。

「甘えたいです」
「……」

そう言って目を伏せる隠岐の頭の上に、蔵之介は自分の手を置き直してゆっくりと動かす。
隠岐はその手に自分の手を重ねながら、幸せを噛み締めていた。

「隠岐」
「ん?」
「俺もお前だけや」

蔵之介がぽそりと呟くと、隠岐は顔を緩ませた。

「……そういうん、ずるいわ」

隠岐は赤くなって固まった蔵之介の手を取り、するりと指を絡めた。

「蔵之介くん、好きやで」

隠岐がそう囁くと、蔵之介は小さく「ん……」と答えた。
照れて俯いたまま歩く蔵之介に、隠岐はニコニコしながらその横顔を見た。

「……ニヤニヤすんな」
「え〜?蔵之介くんのこと大好きやなぁって思って」

隠岐の言葉を聞いて、蔵之介は更に赤くなった。

「……ほんま、お前恥ずかしいやつ……」
「事実やし」

隠岐は上機嫌のまま笑うと、絡まった指にきゅっと力を入れる。
人前で手を握るなんてごめんだ。
それでも、隠岐があまりにも嬉しそうなので、あの曲がり角ぐらいまではこのままでいてやってもいいかな。 そう思いながら、蔵之介はぎゅうと握り返した。








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