スーパー猫の日


※隠岐蔵

「くぁ……」

まだ寒い2月22日。蔵之介は暖房で温められた快適な部屋の窓際で日向ぼっこをしながらうとうとと微睡んでいた。
恋人の隠岐と二人で暮らすこの部屋の中でのお気に入りスポットだった。

「く〜ら〜の〜す〜け〜くん♡」

専用のクッションを枕に横になっている蔵之介の元に、妙にテンションが高い隠岐が話しかける。

「…………」

鬱陶しかったのでフル無視し、蔵之介腕の中に顔を埋めた。

「なぁなぁ!今日は何の日か知ってる?」

しかし隠岐はそれに構わず、ニコニコと話しかける。

「今日はなんと!スーパー猫の日!です!」
「……は?」

猫の日はわかる。わかるが、スーパー猫の日ってなんだ。地味に気になるワードを出され、蔵之介は耳だけ隠岐の話に向けた。

「2月22日って猫の日やろ?今年の猫の日は2022年やから更にニャンニャンが追加されてスーパー猫の日やねん!」

あまりのくだらなさにやはり聞くんじゃなかったと思いながら、蔵之介は本格的に寝る姿勢に入った。

「あ〜ん蔵之介くん寝んといて!俺と一緒にスーパー猫の日エンジョイしよ!いっぱい毛繕いしてあげるしいっぱい撫でてあげる!な!な!?」
「うるさい……」

そう言って蔵之介は目を閉じたまま、ちょっかいをかけてくる隠岐の手を軽く噛んだ。

「痛あッ!!」
「もうええやろ……俺眠いんやって……」
「ひどいわぁ……せっかく蔵之介くんのために用意したのにぃ……」

隠岐は悲しげな声を出し、ラッピングされた箱をひしと抱き締める。

「……何それ」
「蔵之介くんへの猫の日プレゼント」

蔵之介は人間だ。半分は、だが。残りの半分は猫である。
艶やかな黒い毛並みの耳と尻尾、口には控えめではあるが牙が生えており、猫っぽい習性もいくつか持っている。日向で微睡んでいるのもその一つだ。
普段は耳と尻尾を隠し人間として生きているが、隠すのにはかなりの体力を使う。なので家族や恋人、気を許した友人の前では隠さずにいることが多い。
隠岐もその一人であり、蔵之介の本来の姿を知っている数少ない人物だった。

「開けていい?」
「もちろん!蔵之介くんのために買ってきたんやから」

ニコニコと笑う隠岐から渡されたリボンを解くと、中には高級そうな革製の首輪が入っていた。

「首輪……?」
「うん。蔵之介くんが逃げないようにね」
「いやお前……俺人間やぞ」
「そうやけど半分は猫ちゃんやん」

隠岐の言葉に思わずため息をつく。
確かにこの身体の半分以上は人間ではなく猫であるが、だからといって猫扱いされるのは気に食わない。

「ヤダ。つけへん」
「えー!!」

ぷいっと顔を背けると隠岐はわかりやすくショックを受けたような表情をした。
元々猫好きの隠岐は、恋人である蔵之介が半分猫の猫人間であることをカミングアウトされた際、「う、嘘〜!?好きと好きが合わさって……!えっ、えっ!?最高ーー!!!」などと叫びながら狂ったように喜んだ過去がある。それ以来隠岐は事あるごとに蔵之介のことを猫のように扱ってくるのだ。

「お願いやからつけてぇな〜」
「嫌やって」
「じゃあせめて写真撮らせて!それで我慢するから!」
「絶対嫌や!」
「そこをなんとか〜!」

しつこく食い下がる隠岐。必死すぎるその姿が哀れに思えてきてしまい、仕方がないから写真だけならと蔵之介渋々承諾した。

「……写真撮ったらすぐ外すから」
「やったあ!!ありがとう蔵之介くん愛してる!」

隠岐は大喜びしながら首輪を箱から取り出す。

「ん」

蔵之介が目をつぶって顎をあげ、首を晒す。

「はいは〜い♡可愛いねぇ♡♡」

隠岐はデレデレとした笑顔を浮かべると、蔵之介の首に首輪をつけた。
カチャリという音と共に、少しだけ苦しさを感じる。

「ん……」
「大丈夫?苦しない?」
「ん〜……平気……」
「良かったぁ♡似合ってるよぉ蔵之介くん……はぁ……かわいい……♡」

隠岐は蔵之介の頭や頬を優しく撫でながら幸せそうに微笑む。

「嬉しないし……」

蔵之介は不機嫌そうにそう言うものの、気持ち良いのかゴロゴロと喉を鳴らしていた。
可愛くない言葉と可愛い態度のギャップに隠岐は悶絶すると、勢いよく蔵之介に飛びついた。

「ぐえッ!」

突然の衝撃に驚いた蔵之介は隠岐を押し退けようとするが、隠岐はそれを許さず、ぎゅっと蔵之介を抱き締める。

「ほんまかわええ〜♡俺の黒猫ちゃん♡」

隠岐は蔵之介の頭を何度もよしよしと撫でると、するりと首まで手を下ろし、指先で軽く首輪をなぞる。

「よう似合うてるわ……俺のもんって感じでめっちゃ嬉しい……♡」
「はいはい……もう満足やろ?ほら離してや……」

蔵之介は鬱陶しそうに手で払う仕草をするが、隠岐は構わず抱きしめ続けた。

「いやや〜♡もうちょっと堪能させてぇなぁ♡」

隠岐が蔵之介の頭に自分の顔を埋めると、蔵之介も諦めて大人しくなった。背中に感じる日向の温かさと隠岐の体温でぽかぽかと眠くなってきた蔵之介は、隠岐の腕に抱かれたままスヤスヤと眠り始めた。

「あれ。寝てもうたん?」

自分にかかる蔵之介の体重が増したことを感じた隠岐は、腕の中の蔵之介を見やる。蔵之介は隠岐の胸に寄りかかるようにして寝息を立てている。

「ふふ……おやすみ蔵之介くん」

隠岐は起こさないようにゆっくりと蔵之介の身体を寝かせてやると、愛おしそうに頭を撫でる。毛並みの良い猫耳に軽く触ると、くすぐったそうにぴるぴると震えた。

「ほんまかわええなぁ……♡」

ニコニコと蔵之介を撫で回してしばらく。やっと隠岐は写真を撮らなければいけない事を思い出した。

「そうやったそうやった……スマホ……」

隠岐はポケットからスマートフォンを取り出すと、カメラアプリを立ち上げて眠る蔵之介にレンズを向ける。

「あ〜♡可愛いなぁ〜♡」

パシャパシャとシャッター音が部屋に響く。隠岐は数枚撮り終えるとカメラロールを見返し、急に冷静になる。

「なんか……やばい人みたいやな……」

画面の中には首輪をつけて無防備に眠る蔵之介の姿。その光景を撮る自分はどう考えても変態そのものにしか思えなかった。
しかし今更消すのは惜しいし、せっかくなのでこの写真は永久保存しておくことにした。

「蔵之介くんが起きたら改めて写真撮らせてもらお……」

そんなことを考えながら隠岐は再び蔵之介を撫で回す。そして蔵之介の隣に寝転び、一緒になって微睡む。

「ふぁ〜あ……俺も寝ちゃお……」

隠岐は欠伸を一つするとそのまま目を閉じ、深呼吸をする。
暖房の効いた暖かい部屋。心地よい日差し。隣には恋人の温もりと匂い。幸せな空気に包まれながら、隠岐はあっという間に夢の中へと落ちていった。








yVoC[UNLIMITȂ1~] ECirŃ|C Yahoo yV LINEf[^[Ōz500~`I


z[y[W ̃NWbgJ[h COiq 萔O~ył񂫁z COsیI COze