あ、まずい。
作戦室に入った瞬間、冷や汗がドッと出た。
えさんとムショパイは大学。清嗣はクラスの用事で居残り。
じゃあ先に本部行っとくか……でもどうせなら……と思って、隠岐のクラスのホームルームが終わるのを待って一緒に帰る。
だらだら適当な話をしたり途中のコンビニでアイス食ったりして、作戦室に辿り着いたのはいつもよりちょっと遅い時間。
こんな状況だとどうなるのか、俺は忘れていたのだ。
「……っす」
扉が開いて作戦室に入った瞬間、ソファーに1人、ちょこんと座る大谷くんと目が合った。
「……ぅお、おつかれ……」
挙動不審すぎる。うおとか言っちゃった。
てか本気で忘れてた。どう考えてもこれだけ条件揃ってたら大谷くんと俺が2人っきりになるだろ。バカか?
今まで絶対に大谷くんと2人っきりになるような状況にならないように避けまくってきた。大谷くんが嫌いとかじゃない。ゆくゆくは仲良くなりたいと思ってるけど、なんせ俺はド級の人見知りなのだ。
大谷くんもえさんや清嗣みたいにグイグイくるコミュ強って感じじゃなくて、結構クールな感じだから2人きりになると本当に話題がなくて気まずい時間だけが流れる。
だから大谷くんと接する時は最低でももう1人挟むようにしてた。主に清嗣。
でも今日はちょっと……隠岐と一緒に帰るって決めてから気が緩んで油断した。決して一緒に帰るのが嬉しかったわけではない。決して。
正直今からでも忘れ物したとか言って自分の部屋に戻りたい。
でも流石にそれは感じ悪いし、放課後必要なものは全部作戦室に揃ってる。ボーダーいち作戦室がゴチャついてることで有名な我がえす隊の作戦室には様々な私物が置いてあるのだ。
そろそろと部屋の隅に鞄を置いて、スマホを手に大谷くんから対角線の位置に座る。
『清嗣』
『清嗣はやく』
『はやくきて』
『助けて』
『大谷くんと何話したらいい』
『どうしよう』
『逃げたい』
『早く来てーーーッッ!!』
速攻でLINEを開いて、清嗣のトークに鬼のようにメッセージを打ち込む。既読がつく前に、大谷くんに話しかけられた。
「あの、吉本先輩」
「っどゎ、っはい!」
突然声をかけられたことに驚いて変な返事をしてしまった。
「丘ノ下先輩はどうしたんですか?」
「あー……えっと、クラスの用事らしいわ」
「そうですか」
「……」
「……」
やばいやばいやばい気まずい。
また冷や汗がドッと出てきた。
(清嗣〜〜〜〜!!!!)
対人関係で困った時は清嗣に限る。頼むから早く来て。お前がいないと俺は……!
グゥ。
……?
え、俺腹鳴らした?さっきアイス食ったんやけど……?
俺が腹鳴らすなんて日常茶飯事だしな、と思って顔を上げると大谷くんが真っ赤になってた。
……あ、今の音大谷くんか。
「……大谷くん」
「……なんですか」
めちゃくちゃ恥ずかしそう。別に腹減るのなんて普通なのに。腹の音が可愛らしかったから恥ずかしいのかな?地鳴りみたいな音が鳴る俺より全然いいと思うけど。
「なんかおやつ作ろうとおもうんやけど大谷くんもどう?」
「おやつ……」
「おにぎりとか唐揚げとかの軽食系とパンケーキとかカップケーキの甘い系どっちが好き?」
「……え、と……今なら……甘い方?」
「了解」
髪ゴムで前髪をまとめて、エプロンをつけて他の作戦室よりちょっと豪華にしてもらった給湯室へと向かう。
「え、あの、俺……」
「あ、あんま人の手作りとか食べたくない?」
「いや、そうじゃなくて……!今から作るんですか?」
「うん。腹減ったし」
そう言うと大谷くんは複雑な顔をした。
あ、やっぱ迷惑かな?
「……ありがとう、ございます……」
「ぅえ、あ、ハイ……」
すごく丁寧にお礼を言われたので、俺もつられてぎこちなくペコ、と頭を下げた。
(……飯が絡むと普通に話せるな……)
手を洗いながらぼんやり考える。
大谷くんはご飯に誘ってもなかなか付き合ってくれないけど、もしかしたら作戦室でちょっとお茶会するぐらいなら普通に付き合ってくれるのかもしれない。
これ以降、俺は隙あらば大谷くんに料理やお菓子を振る舞って、ちょっとずつ仲良くなることに成功した。
ちなみに清嗣には「餌付けで仲良くなるとかお前オペ谷のことペット扱いしたるなや」と言われた。してへんわ。
終